第1回 イントロ:アメリカの「落水荘」
東京建築巡りに参加して 2000年2月3日 建設経済新聞掲載
 
     
       建築を語る会(以下、語る会)では、毎年、研修旅行を行っている。前回は、シカゴ,ピッツバーグなどアメリカ合衆国の建築巡りを行った。その旅行で,特にペンシルバニアにあるフランク・ロイド・ライト(F・L・ライト)が、設計した「落水荘」が一番印象深かったので東京建築巡り連載のイントロとして記載してみたい。    
 

 落水荘は、ピッツバーグの空港からバスで2時間も走った針葉樹林の中に建っていた。小川に架かった橋を渡り玄関に入ると、天井は低く少し暗くなっていた。居間に行くと天井は高くなり窓も明るくなるように設計してあった。玄関に限らず広い部屋に入る手前の部屋や廊下は総じて天井が低く造ってあった。  この様に、天井の低い小さな空間から天井の高い大きなスペースに入っていくと、のびのびとした空間として感じられた。平面的な広さではなく三次元で広さを感じることができる。

 
 

 建設された当時の写真があったので見ると、自然の岩を取り除かず、梁や基礎部分のみを切り取りしてあり、テラスには既存の木を残すために穴を開けてあった。中には穴だけが残り木が枯れてしまった所もあり木を残すためではなく、デザインをした様にも見えてくる。また、(建物の)周囲の岩はスライスしたような模様になっているが、これを立ち上がってくる壁にデザインとして使ってあった。

 
   外観はと言うと,滝の上からつき出たキャンティレバーとコンクリートのプレーンな壁が、あたかも既存の岩がそれらを支えるためにあったかのような印象を受けた。石積みとキャンティレバーが同じデザインだというのが解る。さらに、庇の先端や手摺の上端は丸く、テラスの手摺りに触った感じは柔らかくて石のゴツゴツした表情とは対照的だ。辺りが薄暗くなると、部屋の黄色身を帯びた明かりが、戸外から見ると暖かい空間がそこにあるように見えてきた。空間を強く意識し、自然石や滝を取り組んだ落水荘は、この地しかできなかった建物だと思った  
   前置きがながくなったが、ずっと心の中であたためていた「落水荘」見学が実現し、「語る会」の企画に感謝している。  次回から、東京の特色のある建物20カ所の見学紀を紹介してみたい。